東京高等裁判所 昭和30年(ネ)2266号 判決
控訴人は「仮りに本件自動車が被控訴人主張のとおり被控訴人に売り渡されたものであるとすれば、この売買はニューランドが日本から出国するに際し一切の財産を処分した折になされたものであり、同人は被控訴人を害することを知りながらなしたのであるから、控訴人は詐害行為として右売買の取消を請求することができるから、右請求権に基ずき本件自動車の引渡を求める。仮りに右主張が理由ないとするも、控訴人はニューランドに対する前記債権の執行を保全するため東京地方裁判所昭和二十九年(ヨ)第五四五四号仮差押決定により同年七月十三日本件自動車の仮差押登録をなし、右本案訴訟は同年十二月二十一日控訴人勝訴の判決が言渡され、この判決は昭和三十年一月十一日確定した。よつて控訴人は右確定判決に基ずき東京地方裁判所に対し本件自動車に対する競売を申し立て、同年三月二十二日競売申立の登録がなされた。このようにして控訴人のニューランドに対する金五十八万六千五百二十四円七十二銭の債権は本件自動車登録簿に公示されているから、控訴人は公示された右債権に基ずいて被控訴人に対し本件自動車の引渡を求める。」と主張するところ、被控訴人は、「右主張は本件異議事件において始めて主張されたものである。元来、仮処分決定に対する債務者の異議申立によつて開始される訴訟手続は、当該仮処分決定の当否を口頭弁論において再判断する手続であるから、債権者が仮処分命令の申請において主張した事実と異る新たな事実を主張することは許されない。控訴人は代位訴権を主張して本件仮処分決定を受けたのであるから、本件異議事件において右の如き新たな事実を主張することは出来ない。また右主張は、控訴人が先になした代位訴権の主張事実とは同一性がない。更に、控訴人は昭和三十年五月三十一日頃本件自動車に対する監守保存命令を執行しようとしたとき本件自動車は既に被控訴人が買い受けたものであることを知つたのであるから、右詐害行為取消権の主張は原審口頭弁論の初頭からなし得たにもかかわらず次回期日に口頭弁論が終結されることを看取するやにわかに主張したものであつて、このために徒らに訴訟手続が遅延するから、かかる主張をなすことは許されない。」と主張するので判断する。
控訴人の右主張が本件仮処分命令の申請において主張されず、本件異議事件の原審最終の口頭弁論期日たる昭和三十年九月二十一日に至り始めてなされたものであることは、本件記録上明らかである。ところで、仮処分命令に対する異議事件においては、債権者は、仮処分命令の申請において主張した事実と異る事実でも、その基礎を異にしない限り、被保全請求権の同一性が失われない以上、これを主張し得るものと解するを相当とする。そして先の代位権の主張も右各主張も、いずれも控訴人のニユーランドに対する債権の弁済を受けるため本件自動車の所有権が、ニユーランドに終始存在したか、又は詐害行為の取消によりニユーランドに復帰したか、又は強制執行の手続により、被控訴人は本件自動車の所有権の取得を以て控訴人に対抗出来ないかの主張を異にするも、結局本件自動車の所有権がニユーランドに属することを理由として、これが引渡を求めているものであるから、請求の基礎に変更がなく、被保全請求権も異ならないと考えられ、かつこれがため訴訟の完結が遅滞するとは認められないから、被控訴人の右主張は採用しない。
(牛山 岡崎 渡辺一)